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②バイオマスの有効利用

5つの事業②バイオマスの有効利用

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北摂里山地域では、以下の3つの事業が展開されています。
・木質バイオマスのペレット・チップとしての利用(東谷地区・中谷地区)
・バイオガスプラントによる地域循環型エネルギーシステムの構築(西谷地区)
・森林バイオマス資源の活用による発電・熱供給(西谷地区)

・木質バイオマスのペレット・チップとしての利用(東谷地区・中谷地区)
木質バイオマスに関しては、猪名川町では間伐材や剪定枝葉から木質ペレットを年600トン程度生産し、これを小中学校の暖房に利用し、町民にも無償配布しています。川西市、猪名川町及び大阪府豊能町、能勢町の1市3町から排出される一般廃棄物の中間処理を行う国崎クリーンセンター(猪名川上流広域ごみ処理施設組合)にも多くの木質バイオマスが集積しており、これをペレット化・チップ化して熱源や園芸に利用することにより、域内の資源循環が可能であり、またそのような需要を拡大することにより、森林・里山保全活動が活発化し、域内での好循環が期待されています。

・バイオガスプラントによる地域循環型エネルギーシステムの構築(西谷地区)
西谷地区は農業が主産業であり、特に畜産においては、糞尿処理の負担や臭気の問題を抱えている。その糞尿の問題を解決するとともに地域を活性化させる方策として、液肥や電力が生産されるバイオガス発電設備の導入研究が、宝塚すみれ発電の呼びかけによって酪農家、地域、行政を巻き込んで行われました。それを受け、宝塚市では、2019年度「宝塚市地域循環共生圏づくりに向けた家畜糞尿活用によるバイオガス発電設備導入可能性調査業務委託」が為され、2020年度に結果が報告されました。現在も継続して、事業化への検討が行われています。バイオガス化施設が稼働するようになれば、その副産物である消化液を田畑で利用することにより、化学肥料の使用量を削減することが期待されています。

・森林バイオマス資源の活用による発電・熱供給(西谷地区)
【2022年度の現況】
【今後の展開について】インタビュー

【2022年度の現況】
2021年度環境省「地域の多様な課題に応える脱炭素型地域づくりモデル形成事業」における補助事業「北摂里山地域の木質バイオマスの有効利用事業」の調査結果が報告されました。

この調査結果を受け、兵庫県では、北摂里山地域循環共生圏構想として、県有環境林の整備をしつつ、その整備によって出る間伐材をバイオマス燃料として有効活用するモデル事業について検討を進めました。
その結果、西谷地区で当該県有環境林の整備を行い、間伐材をチップ化し、ボイラー燃料として活用することを、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の補助金を活用した2年間の実証実験「木質バイオマス燃料等の安定的・効率的な供給・利用システム構築支援事業」として実施する事業スキーム案が策定され地元住民に提案されました。

兵庫県は、一般社団法人徳島地域エネルギーと共に実証実験を推進しています。

2022年度は、実証実験「木質バイオマス燃料等の安定的・効率的な供給・利用システム構築支援事業」の実施フェーズに入り、以下の実証実験がスタートしました。

・県有環境林からの木質バイオマスの伐採、チップ化
・バイオマスセンターの運営開始(乾燥チップ材の生産)
・一部施設へのバイオマスボイラーの導入支援、チップの供給
県有林における伐採地の検討の結果、玉瀬1地区が最適候補地となり、地元説明会を経て、実証実験がスタートしました。2022年度には、軽トラックが走行可能な全長3,000mの「作業道1」が開設され、同じく年度内に「第一団地」エリアが伐採され、チップの原料に供給される予定です。

実施の最新状況をお伝えいたします。
着手されて3日目の8月1日、作業を見学させていただきました。

伐採→積み込み→移送→土場に仮置きの手順で進められています。

まず伐採は、フェラーバンチャ(※)の鰐口のようなグラップルで木をつかみ下部に装備されたカッターで切り倒され、作業道に仮置きされていきます。
(※)立木を伐採(フェリング)し、切った木をそのまま掴んで集材に便利な場所へ集積(バンチング)する自走式機械。

仮置きされた木は、後続のフォワーダにより掴み上げられ、作業員の器用な操作で積み込まれます。

その後、近接する仮設の土場(チッパー導入までの仮置きの場所)にフォワーダによって搬送され、

近接する仮置き土場に集積されます。

現在はこの作業がルーチンで行われて、作業道の開設作業が進められています。

8月末に木材をチップに加工するチッパーが導入されるのを待って、チップ原材の現地生産が開始されますので、現場の状況をアップデートし、掲載いたします。

また、11月末には、現在建設中の「バイオマスラボ」が神戸市北区に開設され、「伐採→チップ化→コンテナ配送→バイオマスラボでのチップ乾燥システム」のチップ製品化のプロセス全体をご紹介できればと考えています。

【今後の展開について】インタビュー
西谷で展開されているバイオマス事業について、兵庫県環境政策課 副課長 満月 卓氏にお話をお伺いしました。
ーよろしくお願い申し上げます。
北摂里山地域循環共生圏のお話に入る前に、そもそもで恐縮ですが、地域循環共生圏に取り組む基となる県の温暖化対策について教えてください。
ベースは、2022年3月に策定された兵庫県地球温暖化対策推進計画になると思います。


計画の方針として6つの方針が挙げられ、地域循環共生圏の創出も掲げられていますが、地域循環共生圏を大きな方針とした流れを教えていただけますか

よろしくお願い申し上げます。
温暖化対策の新しい切り口として地域循環共生圏に取り組んでいます。

温暖化対策推進計画の6つの方針の中でも、他の5つの柱はなんとなくどのような分野の取り組みであるかイメージできると思いますが、「地域循環共生圏の創出」だけは異質なイメージを持たれるのではないでしょうか。1つの分野や考え方に収まるのではなく、いろいろな温暖化対策の分野を横断的につなぎ、地域として広く温暖化対策に取り組む方針として、1つ柱にしています。

目標は、それぞれの柱に2~3つの施策目標を設定していますが、地域循環共生圏の創出に関する柱の目標は、県で実施している「地域創生!再エネ発掘プロジェクト」をベースにした「地域主導で行う再エネ導入に向けた取り組み件数」と「再エネの理解促進を目的としたワークショップ・セミナー等への参加者数」の2つの目標値を設定しました。

ここで言う地域とは、その取り組みに必要なエリア・地域のことで、自治会や市町などの行政的・地理的な範囲に囚われているわけではありません。

またセミナーやワークショップについては、共生圏の種となる地域理解の促進をサポートしたいと考えています。
共生圏に取り組む地域を増やすために、先進事例や成功事例を積極的に紹介することで、地域住民がやれるんじゃないか、やってみようと意識していただけるように取り組んでいます。

ー兵庫県は地域主体の取り組みを応援されている印象を持っていますが、再エネ対策促進という意味では、大企業が大規模に取り組むことが効率的という考え方もあります。あえて地域を主体とした取り組みをされているのか、背景を教えていただけますか

やはり再エネで得られる利益が地域に還元されることが重要と考えています。県としては、需要があり、やりたいという意識はあるが、資金的・人的等ハードルを超えられない会社や住民団体などをサポートしたいと考えています。

大企業には人的資源も大きく、助成等を引き出す力があります。地域住民や決して大きくない企業に寄り添うことが兵庫県の役割だと考えています。

ー県内に地域循環共生圏を創出していくという点では、現状をどう考えておられますか

地域循環共生圏の今の立ち位置は、北摂地域での取り組みが緒に就いたところであり、まだまだこれからと感じています。
県内に広げるという点では、まずは色々な地域に種を蒔いて、芽が地表に出てくるよう大切に育てている段階だと思っています。
セミナーの開催や今回10月に出展を予定しています『ひょうご里山フェスタ』等イベントを活用した種蒔きの時期ですね。芽が出てくれば、先ほどお話ししていました「地域創生!再エネ発掘プロジェクト」等を使って、花が咲くように育てていくイメージを持っています。
県内では、少し芽が出てきた事例として、「六甲川水車新田小水力発電所」の取り組みが挙げられると思います。

ひょうごの環境ホームページより
ご担当者には、色々なところで事例紹介のご講演をいただいていますし、六甲川小水力発電所をきっかけに、周辺の住民の方も一緒になって周辺の里山を活性化する取り組みも始まっています。広がり、循環という意味ではこれからかもしれませんが、このような取り組みも少しずつ芽が出てきていると感じています。

ーありがとうございます。では、西谷で取り組みが進む木質バイオマス事業について、お聞かせください。

まず一番に「里山林の再生」という目標があります。全国的にも里山林の再生と木質バイオマスの利活用を一体的に進めている事例がないと言っていい状態です。
そこで着目したのが、宝塚市西谷地区の県環境林の整備です。何十年も本格的な整備に入っていませんでしたが、県有地でもあるという点で着手を目指しました。着手のベースになったのが、前掲されています2021年度「北摂里山地域の木質バイオマスの有効利用事業」の調査結果です。
この調査で、一つの事業モデルが提案されました。

この事業モデルを実現するには長いアプローチが必要です。

この報告が出た時期に持ち上がったのが、一般社団法人徳島地域エネルギーとの協業であり、これも前掲されています、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の補助金を活用した2年間の実証実験「木質バイオマス燃料等の安定的・効率的な供給・利用システム構築支援事業」スキームへの取り組みです。

県では、西谷地区をフィールドとしたこのプロジェクトの実現を目指し、まずは地域の理解を進めるために、昨年度から今年度にかけて、住民向けの説明会を複数回開催し、地域の回覧版なども活用しながら事業の周知に努めました。
地元の方々と対話を進め、西谷地区全体としてご理解をいただいた後、里山林の伐採場所の検討を進め、伐採場所の地元自治会の皆さんにも説明会を開催し、ご賛同をいただき、今年の7月末から実証事業に着手しています。
この事業は、里山林の再生と再エネの利活用を両立させる自然環境保全の解決策になるものと期待しています。
また里山に手が入っていない状況は、西谷地区だけでなく、地域全体の課題であると実感しています。

持続可能な事業として成功するには、地域全体を取り込んだ一つのサイクル・循環を生み出せるかにかかっています。上流では、里山林の再生を目的とした伐採を進め、木質チップができても、下流であるバイオマスボイラーの需要とのバランスが重要だと考えています。そのため、化石燃料からの脱却・燃料転換を進めるため、バイオマスボイラーの普及も課題であると認識していまして、県としてどう取り組めるか模索を続けています。

ー公共施設によるバイオマスボイラーへの転換は進まないんでしょうか

タイミングがポイントかなと思います。設備更新のタイミングで、施設管理者にお願い出来るかにかかっています。またチップの供給が安定し、ある程度安価で提供できる仕組みができていなければなりません。採算性の観点から、チップの供給地から概ね半径50キロ圏内にあるという制約もあり、タイミングとともに立地も大きなポイントになります。

今後、エネルギーを取り巻く環境は大きく変わっていくだろうなと思っています。バイオマスボイラーをすでに導入されている県内の事業者もおられますので、事例を積み重ねて、種を広く蒔いていきたいと思います。

先程申し上げましたとおり、里山林の再生とエネルギーの利活用を一体とした事業は先例が極めて少ない事業ですので、先ずは事業に寄り添う中で課題に取り組み、自らの知見を育てたいと考えています。それが今の立ち位置です。温暖化対策推進計画の目標年度である2030年度を計画するというより、将来の姿を見据えつつも、試行錯誤の中に飛び込み、試行錯誤の中から次の施策を考えていきたいと思っています。

やらないといけないことは山積していますが、これからも地道に頑張っていきますので、よろしくお願い申し上げます。

ーありがとうございました。

 

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