Loading

①太陽光発電と農業の両立

5つの事業① 太陽光発電と農業の両立

Pixabay

現在の活動と実績【進捗状況】

今後の展開【インタビュー】
mama

 

 

1.現在の活動と実績【進捗状況】
再生可能エネルギーでのまちづくりを目指す「NPO法人新エネルギーを進める宝塚の会」から派生した非営利型株式会社宝塚すみれ発電は、2022年現在、宝塚市内を中心に計8基(発電容量計413kW)の太陽光発電設備を設置してきた。第1号基(2012年12月)は耕作放棄地に市民出資にて、第2号基(2013年11月)は社債発行と銀行融資にて、第3号基(2015年3月)は「宝塚市再生可能エネルギーの利用の推進に関する基本条例(2014年6月)」の制定の下、宝塚市との共同事業「市民発電所設置モデル事業」として市所有の遊休地にて、第4号基(2016年4月)は西谷地区のソーラーシェアリング市民農園として、第5号基(2016年2月)は他団体から引き取った中古パネルを再利用し、資金の一部をクラウドファンディングで調達して、第6号基(2016年6月)は「ひょうごコミュニティー財団」が募集した共感寄付を利用して設置するというように、様々な形態の事業を実施してきた。さらに西谷地区においては、地元の農家や自治会、一般社団法人西谷ソーラーシェアリング協会と連携し、計6基(発電容量計約180kW)の設置を支援し、このすべてが災害時の非常用電源として利用可能になっている。

宝塚すみれ発電の第3、4号基及び西谷ソーラーシェアリング協会の第7、8号基の設置は、それぞれ兵庫県の「地域主導型再生可能エネルギー導入促進事業」及び「地域創生!再エネ発掘プロジェクト事業」により、20年間の無利子融資制度を利用している。生活協同組合コープこうべは、再生可能エネルギーによる発電量が3割の「コープでんき」を約3万世帯に届けており、宝塚すみれ発電もその調達先の一つとしている。

太陽光発電の拡大
・(株)宝塚すみれ発電とNPO豊中市民エネルギーの会の協働事業として、「じぶん発電」講習を開催し、家庭のベランダや庭などでの太陽光発電の普及を進めている(50Wパネル×100世帯)。

ソーラーシェアリングの拡大
・宝塚すみれ発電は多様な太陽光発電推進の事業モデルを有し、これまで行政、民間企業、農業従事者、金融機関等とも連携してきた実績があり、同様の活動を中谷や東谷など他地区に発展・拡大していく実現性は高い。
・耕作放棄地をソーラーシェアリング施設化することにより、農地の保全及びその有効利用を進めている。
・ソーラーシェアリング下の農地を市民農園として貸し出すことにより、都市部住民と農村地区との人的交流を促進するとともに、農地の保全及び有効利用が進んでいる。
既存の市民農園のソーラーシェアリング化を進め、市民農園の付加価値を高める(日陰の提供)。
・ソーラーシェアリングのある市民農園を、食とエネルギーの地産地消を体現する体験型学習施設としての活用が進んでいる。
・発電した電力は、生活協同組合コープこうべのコープでんき等の地域電力会社に販売し、環境負荷の小さい電力を求める消費者に提供。


2.今後の展開【インタビュー】

太陽光発電と農業の今の立ち位置を、さつまいもの収穫も近い西谷地区第4発電所にお伺いし、(株)宝塚すみれ発電代表取締役 井上保子氏にお話をお聞きした。

ーよろしくお願い申し上げます。お久しぶりです。
ーソーラシェアリング事業を始められてからの7年で、再エネの事業環境に関してはどのような変化を感じますか?
よろしくお願い申し上げます。
再エネを実行する政府の方針がふらついている感が強いです。従って、行政もふらつき、影響下にある事業者もふらつかざるを得ない。そのふらつきをいかに吸収し事業運営を健全化するかを、絶えず自分に問い続けてきたと思います。それが一番顕著に出たのが、FITの買取価格の変動です。

変動というか想定外の下落に、どう対応するかに集中していました。私どもが事業を始めた時期は40円の買取価格でしたが、2022年現在は12円。
イニシャルコストは下がっていますし経営努力の面もありますが、パワコン等のメンテ費用は経年により増加を余儀なくされます。また契約というか運営自体は20年間行うことが義務付けられていますので、地主様はじめステークホルダーの皆様に迷惑をおかけしない継続運営することを考えると、ある意味物理的に、現状のシステム・ユニット、やり方ではこれ以上の拡大は難しいと言わざるを得ません。

ー次の新たな方向性方針が必要だということですね
この事業自体はFITの買取期間が20年ですが、それ以降も当然続いていきますので、確実に運営を継続できる仕組みを作り出すことがベースになります。一般社団法人西谷ソーラーシェアリング協会が運営の窓口となり、弊社と協力体制を整えて対応しています。太陽光パネル自体は効率が悪くはなっていきますが耐用年数35年、まだまだ先は長いですね。大きな可能性を感じていますのは、農業の新たな担い手が育ってきたことです。育ち始めたと言った方がいいかもしれません。

ー再エネの取り組みとの連関性は?
そもそも私どものベースは、食の安全を守ることです。
食を守るために、農地と農業事業者の確保が課題だと考えました。今の農業単独ではとてもペイしないので、どんどん放棄地が増え歯止めがかかりません。農業自体も苛烈な自然環境の中で自分を晒して仕事をしなければならない。この2つをうまく解決する手法として取り組んだのが、いわゆる営農型太陽光発電ソーラーシェアリングです。

(農水省資料より抜粋)

FIT事業と絡めたことで、太陽光パネルの下には農地を維持することが必須となリ、少なくとも20年間は農地が担保される。かつ、33%の日光遮光率を生み出すことで、農繁期の真夏の暑さを軽減し農作業に取り組みやすくなる、結果、食の安全が保たれるというシナリオです。

現在私どもの市民農園は100%の貸し出し実績があります。全国平均は60%程度の貸出率ですので倍に近いですね。農業に興味がある人々が農業を生み出す環境にも興味を持っていて、太陽光発電自体を自分で体感したいと思われた人が利用されています。もっと市街地に近い市民農園はありますが、遠く西谷まで来られる付加価値になっています。ベースには、コロナ禍で屋外での活動に注目が集まり、なかなか農業まで踏み込めなかった人が多く参加されていることも挙げられます。農業の面白さに触れてもらうきっかけを作ることで、担い手を増やす。併せて農作業の実態や農業の持つエネルギー問題にも興味が広がる場になってきたなと思います。

皆様前向きですね、今年は他にも農地を借りる人が多く出てきて、最近では転身して農業を専門に就農された人も出てきました。

ー凄いですね
休耕地の再生にも繋がっています。一緒に活動していますコープこうべさんの取り組みを見ても分かるんですが、初めは2区画借りられて自社の組合員の方々と取り組んでおられましたが、現在は5区画に増えています。農業に取り組むきっかけを提供できていることは、私どもの目指した形になってきたなと思っています。

ー今ウクライナ問題とかがあり『食の安全保障を確保すること』が耳目を集めていますよね。
現在の日本の食料自給率は38%。

(農水省 ホームページより)
下げ止まり感はありますが、低いですよね。飼料も沸騰し、円安が進む。危機的な状況ですね。

一言で農業を再興すると言っても、普通に耕作するにも耕運機のような管理機が必要ですので、農業は意外と化石燃料を大量に消費しています。省エネ対策と再エネ対策、農業の振興の3つが有機的に連携して、かつ早急に育てなければならない。
政府が対応しマスでカバーすることは当然ですが、


(農水省 みどりの食料システム戦略)

やはり、足が地についた生産者と消費者の顔が見える地域で、食の安全保障を確保することが必要ではないかと思います。

耕作地は一旦放棄されると一挙に自然に還ります、還ろうとします。これを引き戻すことは本当に難しいですよ。田んぼの真ん中に木が生えてきますから。具体的にここをどうするという話ですね。市民農園の気付きが農業を救うのではないかと思っています。

ー全国で畑耕地は1年で1万ヘクタール減少しています。この流れを食い止めるためにも、新たな農業の担い手を生み育てることが急務ですね。
そこで大切なのが北摂里山地域循環共生圏です。
市街地の人たちと農地、農業を結ぶもの引き寄せるものそれが里山の複合的な間口の広い魅力です。里山の魅力を伝えること、そして里山の魅力を守ることが大切ではないでしょうか。共生圏事業の中で連携を作り出し守り育てていきたいと考えています。

具体的な取り組みとして、獣害対策が大きな切り口となりました。せっかく農地・耕作地として作物を育てても、猪や鹿などの食害で一気に荒らされる状況が最近顕著に増加しています。単純に駆除するのではなく、地域の食材に育て、ジビエ料理として観光客に振る舞う、地域の特産として販売する等地域のリソースにまで高める活動に取り組んでいます。

また、食の地域振興、新たなリソースを作るという意味で養蜂による食のコンテンツ作りに着手しました。里山のイメージを膨らませるいい食材だと思います。

獣害が生まれる大きな要因は、森林・里山の荒廃です。蜜蜂の住む環境も同じですね。燃料林として整備された森林になれば獣害は自ずと減っていきます。そこで大切なのが、木質バイオマスの振興であり、地域内でのサイクルの構築です。整備だけしても継続性が生まれません。整備されて排出される木材をいかに利活用し、サイクル化していくか。西谷で今取り組んでいる木質バイオマス事業がこれに当たります。実験的な取り組みのフェーズですが、このフェーズをいかに地域に根ざしたものとして定着させるか、横展開することで効率化ビジネス化を図れるか、この課題に私どもも取り組んでいきたいと思います。

農業におけるソーラーシェアリングも、横展開に取り組みたいと思います。少なくとも後20年近くサッカー場1面より少し広い8000平方メートルの農地を守り育てていける、その地で多くの人たち新しい農業の担い手を作り出していくことが出来る状況に持ってくることができました。

この経験と実績をベースに、全国の仲間たちと一般社団法人ソーラシェアリング推進連盟を通じて優れた事例と最新の技術動向を取り込みながら、また協会を通じた政府への政策提言を通じて、これからも西谷の地で再エネと農業に関わる新たな取り組みを続けてまいります。

ーありがとうございました!

関連ページ インタビューず

PAGE TOP