Loading

インタビューず

非営利型株式会社 すみれ発電 代表取締役  井上保子氏

井上保子(いのうえ やすこ)氏
1959年 兵庫県宝塚市生まれ。
非営利型株式会社宝塚すみれ発電 代表取締役
NPO法人新エネルギーをすすめる宝塚の会(REPT) 理事
一般社団法人みんなの低温殺菌牛乳協会 理事
一般社団法人ご当地エネルギー協会 近畿地区幹事
2011年3月の東日本大震災での福島原発事故がきっかけとなり、再生可能エネルギーでの街づくりを目指して2012年にREPTを設立し、全国初の市民太陽光発電所を自分たちの手で設置。発電所を更に展開するため翌2013年には宝塚すみれ発電を設立、現在に至る。これまでに宝塚市等で6ヶ所の市民発電所を設置。主に農業と農地を守り、その担い手の育成に努める等、地域が元気になる取り組みを続け、丹波市の乳業企業では工場屋根に太陽光発電を設置し、酪農を守る、食の安全を守る取り組みもしている。モットーは、「安全な環境と安心できる食物で生活する」。「丁寧な暮らし」を心がけて生活し、食べ物に関しては納得いくまで突き詰める、こだわり派。

非営利型株式会社 すみれ発電
2013年5月設立。宝塚市や地域の方々と一緒に再生可能エネルギーづくりに取り組む、非営利型の地域エネルギー会社。
地域の方々が主体となった発電所づくりを行うことで、地域に還元ができる市民発電所づくりを実施、現在6機の発電所を設置稼働。
「みんなで安心安全なエネルギーをつくり、賢くつかいこなす社会」の実現を目指す。
関連ページ 太陽光発電と農業の両立バイオマスの有効活用

再生可能エネルギーを活用してまちづくりを!”の思いから、市民出資の発電所を設置。第6号発電所まで拡大。さらに、ソーラーシェアリングによる市民農園運営、中古ソーラーパネルの活用、地元の大学との連携、発電した電気のコープこうべへの売電等、様々な取り組みにも挑戦。その発展の経緯やご苦労、今後の展望などを伺いました。

きっかけは東日本大震災の福島原発事故、“原発に頼らない暮らしがしたい”と実感

再生可能エネルギーを進める活動を始められたきっかけは?

2011年3月に東日本大震災の福島原発事故をきっかけに、今後はもっと再生可能エネルギーについて考えないといけないなと実感。原発の危険性を考える宝塚の会の有志で宝塚市に原発のない街づくりをという話をしに行っていましたが、「エネルギーは国の問題だから」と言われ、電力会社からは、「原発に代わる対案を持ってきてください。」という返答でした。

そこで、私たちの要望を「再生可能エネルギーを最大限に活用してまちづくりを行ってほしい」という請願にまとめて、同市に提出し、同年6月に採択されました。それによって、これからは行政と一緒に活動していくのだから、団体としての信用をより高めるため、新たに活動団体を立ち上げよう!という話になり、同年5月に原発の危険性を考える宝塚の会の世話人が発起人となって「新エネルギーをすすめる宝塚の会」(REPT)を設立、9月にはNPO法人の認可を受けました。

自分たちで市民発電所を作ろう!

太陽光発電所を設置した経緯を教えてください

「市民発電所を作る」と初めに口にしたのは中川慶子REPT前理事長だったのです。太陽光発電について相談に乗ってくれそうな市内の事業者がいるという情報をREPTのメンバーから得てその事業者を訪問し、そこで「自分たちで発電所を作ってしまうのはどうか」と提案されたのです。さらに、その事業者がREPTの活動に参加されたことで発電所設置への流れができました。その提案が「面白い!」と勢いがついたことに、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)が開始されたことも追い風となって、自分たちで市民発電所を建設することになりました。

振り返って見ると怖いもの知らずの市民力のたまものだったなと思います。そして、2012年12月に市民発電所第1号を、宝塚市の西谷地区の耕作放棄地を地主さんから借りて、土地整備のみ業者に依頼し、残りは自分たちで設置しました。宝塚市とはそれまでに話し合いや協働等の機会を重ねてきていたこともあり、設置時には、宝塚市の新エネルギー推進課の職員も手伝いに来てくれました。市民とNPOと行政が連携して作業をおこない発電所を設置しました。

その後、市民発電所を事業化し、さらに展開していく中で、事業者として各方面の関係機関との信頼関係構築等の必要性を感じ、2013年5月に非営利型株式会社宝塚すみれ発電をREPTから派生して設立しました。それ以降、これまでに市民発電所を第6号まで設置してきました。

条例の制定は、行政による一番の支援

発電所1号・2号以降も順調に発電所設置が進んだのですか

宝塚市への請願書が採択されて、市との話し合いの場を得たのですが、最初から順調だったわけではありません。当初は、お話に言っても、行政側には私たちの要望や求められる対応について、なかなか理解されず、どう向き合えばよいのか・・・大いに悩みました。それで、会合を頻繁に開催、講演会を共同で開催したり等の交流や連携を通じて、徐々に行政との距離を縮めていく努力を重ねていきました。

こういった努力により、私たちも行政の立場ややり方が少しずつ理解できるようになってきて、行政には、理解が得られそうなこと、動いていただけ易いことを中心に依頼や要望をしていく、というスタンスで向き合うようになりました。“やらせているのでもなく、やっていただいているのでもなく、一緒にやっている!”という感じです。そう接していると、行政側も動いてくれ、2012年4月に宝塚市に新エネルギー推進課が新設されました(2015年4月に、地域エネルギー課に課名変更)。

この時から、私たちと行政とが「再生可能エネルギーの普及」という同じ目標を目指して進むことになったのです。特に、2014年に宝塚市に「再生可能エネルギーの利用の推進に関する基本条例」が制定された事は、これまで積み重ねてきた努力が実を結び始めた出来事でした。行政による一番の支援は、条例の制定だと思っています。それから、同年に宝塚市から「宝塚市市民発電所設置モデル事業」の事業者として選定され、太陽光発電所用地の無償貸与と、発電所設置時の固定資産税課税免除制度(設置初期5年間)の創設によって発電事業普及へ支援をしていただけました。

その他には、兵庫県も私たちの市民発電所設置の取り組みに関心を持ってくれて、情報交換や要望についてお話をする機会を持てるようになりました。そして、兵庫県の「地域主導型再生可能エネルギー導入促進事業」の支援事業等を通じて、無利子融資等の支援をいただけました。これらの取り組みは、行政が主導で推進したのではなく、市民が主体となって、地元市民や行政を巻き込み推進した、言わば、川下から川上へと流れを変えていった取り組みと言えるでしょう。

地元協力者との信頼関係によって用地を確保

事業用地の確保についてのご苦労は?

土地は、私たちの活動に賛同してくれた地元の方々の私有地、農園、牛乳工場の屋根等をお借りし、太陽光パネルを設置してきました。発電所1号と2号は、“うちの土地を使ったらどうですか”と言ってくださった地元の協力者から提供を受けて確保できました。1号は耕作放棄地、2号は地域の協力者の用地(寺院敷地)です。

しかし、民地を利用させていただくことはそう簡単なことではありませんでした。また、太陽光発電でFITを利用すると、20年間事業を継続することを意味することにもなるので、地主さんたちとの信用関係に基づく20年間の賃貸契約を締結し、賃貸料も継続して支払う覚悟を持って契約しました。このことは、20年間は農地として守れるという意味合いもあるのです。

発電所3号は、2014年に宝塚市から「宝塚市市民発電所設置モデル事業」に採択されたため、同市より太陽光発電所用地を無償で貸与いただけ、用地が確保できました。

発電所4号では、ソーラーシェアリングという、農地に支柱を立てて、その上部に太陽光パネルを設置し、太陽光発電と農業生産を同時におこなう取組をおこないました。ソーラーシェアリングの農地も20年間維持しないといけないので、地元の農家(地主)さんに働きかけをおこない用地を確保しました。

発電所5号は、丹波市の乳業会社の冷蔵庫施設の屋上に設置し、太陽光発電で得た電力を施設内使用することで、電気代を低く抑える経営安定策となりました。発電所6号は、2号の用地の空きスペースを利用し、ソーラーパネルを増設しました。

資金確保は、金融機関、行政の支援、クラウドファンディングなど様々な方法で

ー資金調達面でのご苦労は?

発電所第1号は、REPTが設置し、設置費用は約320万円かかりました。費用は、行政の補助を受けず、REPTが疑似私募債(110万円)で募集し、活動への協力者からの資金を活用させていただきました。お陰様で、1ヶ月で募集額を全額達成し、費用を賄うことができました。

発電所1号が軌道にのり、発電所を事業化するために合同会社宝塚すみれ発電所を設立しました。発電所2号の設置費用については、再び悩んで、宝塚市と産業協定を結んでいる金融機関に相談にいきました。そこで、金融機関など地域のステークホルダーから支援を得るには、発電事業による損益の明確化や、金融機関との信頼関係の構築を通じて、まず会社に力を付ける必要性があることを痛感し、法人形態を選択することにしました。

そして、企業や事業者、市民に支えてもらえるような会社になりたいという意味を込め「非営利型株式会社すみれ発電」を設立しました。

株式会社設立後は、金融機関への頻繁な報告等を通じて信頼関係の構築に努めました。金融機関には会社のお金の収支を厳しくチェックされました。その他、売電債権の担保化、変更金利、個人保証、ローン期間等、様々な条件は付きましたが、何とか銀行融資と社債発行による資金確保ができました。信用力のない会社に多額の融資をしてくれた金融機関には感謝しています。融資をいただいた後も、金融機関への報告を習慣化し、信用構築に努めました。

発電所3号と4号では、「兵庫県地域主導型再生可能エネルギー導入促進事業」の支援事業に採択され、それぞれ1,000万円の無利子貸付を受けることができ、設置費用の一部を賄うことができました。発電所5号では、丹波市の乳業会社に太陽光パネルを設置しました。その費用の一部は、消費者団体である「一般社団法人みんなの低温殺菌牛乳協会」がクラウドファンディングで調達し、目標額(100万円)を上回る金額を集金(126万円)してくれました。発電所6号は、REPTが、ひょうごコミュニティー財団が募集した「共感寄付」により、二期にわたり寄付(921,000円達成)を募集し、設置費用の一部に充てました。

事業に関する地域や住民へのメリットを明確に示し、理解を得る

ー地域・市民への働きかけの面でのご苦労は?

発電所設置の取り組みに関して地域住民の理解や合意を得るのは、とてもとても難しかったです。

地域住民は、住居環境が変わることに敏感で、発電所設置による住居環境の変化への不安や懸念が示されました。その解決には、事業の説明を丁寧にすることを通じて、まず地域住民の理解を得て、信頼関係を構築することが必要でした。このような事業を実施する場合、住民にどのようなメリットがあるのかを明確に示すことが重要であると思います。

特に、電気は見えないものなので説明は難しく、この地域で作った自然エネルギー(電気)は地域住民が使用することになる、発電所には非常用電源を完備していて、非常時には、発電所を開放して使えるようにすること等を粘り強く伝えました。また並行して、食と農とエネルギーをテーマにした講演会やワークショップを地域で開催したり、発電所のメンテナンスに地元住民に参加いただいたりして、事業への理解を深めていただきました。

そのような取り組みを通じて、理解が徐々に進み、今では地域の防災訓練の手伝いの要請を受ける等、信頼関係が築かれてきました。それと並行して、地域の地主さん達への働きかけも引続きおこなっています。一般社団法人西谷ソーラーシェアリング協会を地主さん達に理事になってもらって立ち上げ、協会の活動を支えることを通じて発電所の拡大を図ってきました。地主さん達の頑張りのお陰で、8基まで拡大しています。また、「宝塚市市民発電所設置モデル事業」に採択され、実施したことは、市民が再生可能エネルギーへの意識や認知度が向上した機会にもなりました。

活動の目的をはっきりと相手に伝え、

行政や他のステークホルダーが関心持って参画、支援してくれる活動に!

どのように事業分野を拡大してきたのですか?

市民発電所の新たな拡大の流れができたのは、4号のソーラーシェアリングの時でした。ソーラーパネルを農地の上に設置し、下の農地を市民農園として、安価で貸し出し、売電利益の一部を還元する仕組みをつくりました。こうした取り組みによって、環境に負担をかけない農業をおこない、農地や農業を守るだけでなく、農業の担い手の育成にもつなげられたことは、大きな成果だと思っています。市民農園の貸出率が100%であることは私たちの自慢で、市民農園を通じて、都市部の市民が西谷地区へ足を運ぶようにもなりました。

また、市民農園を活用して、地元大学の甲子園大学栄養学部と連携し、共同研究もしています。学生は、市民農園でさつまいもの無農薬栽培を、畝たて、生育調査から収穫まで行い、収穫物を使ったメニューの開発や加工品(ジャム)の製造をおこなっています。これらも食育と農業の担い手育成のきっかけとなる活動成果と言えます。

さらにコープこうべと連携した活動もしています。発電所3号と4号の電力をコープでんきへ売電しています。コープこうべは、市民農園を活用した会員への啓発活動や、先述の甲子園大学とも市民農園で共同作業をされています。これにより、市民の再エネへの認知が進んできているのと共に、私たちが作った電気を市民に使っていただくことが可能になりました。また、コープでんきも、電気の地産地消という宣伝効果を得られると共に、作り手のわかる電気を扱うようになったことで、利用者の拡大にもつながっていると思います。

宝塚市以外では、先述の丹波市の乳業会社で、中古の太陽光パネルを冷蔵庫施設の屋上に設置し、自家消費しています。すみれ発電ではFITに頼らない特定供給という形で電力を供給し、それにより、同社は電力消費量や経費の削減を図ることができ、酪農運営を守る、すなわち低温殺菌牛乳作りを持続する支援をしています。

その他、酪農は糞尿の課題もあり、今後はこれのバイオマス化によるエネルギー利用を計画しています。このように様々な活動をしてきましたが、私たちは、いつも活動に対して、行政や他のステークホルダーが関心持って参画、支援してくれるように考え、取り組んでいます。そのためには、何のためにやっているか、その目的をはっきりと相手に伝えることが重要です。それを理解、賛同した仲間たち、他のステークホルダーが活動をサポートしてくれ、資金が必要な場合は、その仲間が方策を考え、資金調達に尽力してくれています。

これまで積み重ねてきた活動を共生圏プロジェクトで!

北摂地域循環共生圏プロジェクトに参画されたきっかけは?

今年度、採択された、環境省の「地域循環共生圏づくりプラットフォーム事業」の北摂地域循環共生圏プロジェクトに参加しています。きっかけは、兵庫県阪神北県民局で、この共生圏プロジェクトの実施を計画しているという話を伺ったことです。その時、これは自分達がやる意味があるプロジェクトだという印象を持ちました。それで、これまで積み重ねてきた活動を、今こそ共生圏においてやるべき時が来た!という思いで、プロジェクトに参加することを決めました。

ー今後どのような展望を描いていますか?

プロジェクトを通じて、太陽光発電と農業の両立の活動では、ソーラーシェアリングを拡大展開していきたいと思っています。現在、西谷地区で展開しているソーラーシェアリングを、東谷地区や、他地域で横展開できないか検討しています。また、じぶん発電と銘打った自宅のベランダや庭に太陽光パネルを設置し、じぶんで作った電気をじぶん自身でつかう、非常時にも非常用電源としてつかうという取り組みも展開していきたいと考えています。

もう一つは、バイオマスの有効利用の活動で、宝塚市の畜産部門のバイオマス事業に取り組んでいきます。宝塚市が今年度の環境省の「二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金」に採択されました。そのことは大きな励みになっています。

今後、宝塚市の主導で畜産部門のバイオガスの調査事業に取り掛かります。私たちもこれまで以上に行政と協力して、事業への理解の向上を目指して活動していきたいと思っています。

 

キーポイント:
・事業には、行政や、各分野の専門家、及び様々な人を巻き込む。
・事業を通じて、農地や農業を守る、農業の担い手を育成、酪農運営を守る。
・行政とのコミュニケーションは密にして距離を縮めることに注力し、協働で取組むスタンスで。
・事業用地は、地域の関係者や住民との信頼関係に基づく協力や支援が基本。

(M.Ta.)

 

NPO北摂里山文化保存会 理事長 金渕信一郎氏

甲子園大学栄養学部教授 鎌田洋一氏 山下憲司氏 大橋哲也氏 

関連記事

  1. 丸山湿原群保全の会代表 今住 悦昌 氏

    2023.07.11
  2. 公益財団法人 地球環境戦略研究機関 田中 勇伍 氏

    2022.02.11
  3. ネッツトヨタ神戸 岡﨑英徳氏 太田光俊氏 露口紀之氏

    2021.10.17
  4. NPO北摂里山文化保存会 理事長 金渕信一郎氏

    2019.09.09
  5. 兵庫県環境管理局長 菅 範昭 氏 

    2019.12.17
  6. 北摂ワイナリー株式会社 代表取締役 遠藤 薫 氏 

    2024.08.02
PAGE TOP