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③地域交通システムの構築

5つの事業③地域交通システムの構築

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地域交通システムの構築

・人口減及び高齢化の進む北摂の農村部及び住宅地では、公共交通サービスの維持が困難になってきており、交通弱者への対応が課題となっている。また、「北摂里山博物館」の魅力を高め、都市住民や観光客を誘致するには、各観光施設やサイトにアクセスしやすく、回遊しやすい、利便性の高い交通サービスが欠かせない。このような交通サービスには、太陽光発電の電力を利用した電気自動車や電動アシスト自転車及び充電スタンドの設置、バイオガス生成によるバイオ燃料を利用したコミュニティバスの運行等、地産のクリーン・エネルギーを利用したインフラ整備が考えられる。また、スマートフォンやタブレットを利用して需要と供給をつなぎ、ライドシェアを促進し、需要量に応じたきめ細かいサービスを提供することにより、住民と訪問者双方のニーズを満たすことができる。こうした構想も含め、地域の交通サービスを提供している能勢電鉄株式会社阪急バス株式会社阪急タクシー株式会社等の関係者を交え、北摂地域循環共生圏における地域交通の在り方について検討していく。

地域交通システムの構築に向けた最近の取組み
・猪名川町では、ネッツトヨタ神戸を事業主体とする、オンデマンド交通システム「チョイソコいながわ」の本格導入が始まり、新しい取り組みが進んでいる。
詳細は、インタビューず「ネッツトヨタ神戸  
岡﨑英徳氏 太田光俊氏 露口紀之氏」を、ご覧ください。

・川西市では、オールドニュータウンの1つ、多田グリーンハイツでは、ボランティア輸送を中心とする「お出かけ支援プロジェクト」が実績を積み上げている。高齢者の多いオールドタウンのラストワンマイル問題解消の1つの可能性を示唆している。取り組みに注目したい。

川西市地域公共交通会議資料より P44
詳細は、インタビューず多田グリーンハイツ自治会『お出かけ支援』 難波 康晃 氏」を、ご覧ください。

現在の状況と今後の方向性【インタビュー】

地方における公共交通の問題は、自動車の普及・大衆化とその後の低経済成長及び人口減少が顕在化して以降、日本の多くの地域社会において議論され、解消を目指す数多の試みがなされているにもかかわらず、顕著な成功例を見ない分野と感じています。
北摂にとどまらず、地域に囚われずに俯瞰した形で、地域交通の課題、現状、解決への方向性を再度検討すべく、多くの自治体で交通計画全般の策定に関与され、長く地域公共交通の問題に深く取り組んでおられる、大阪市立大学名誉教授 日野泰雄先生にお話をお伺いしました。

ーお忙しい中お時間をいただきます。
よろしくお願いいたします。
北摂里山地域循環共生圏の取り組みを拝見しましたが、そもそも公共交通の問題は過疎地対策の問題なのかという問いがあると思います。
世界的に見ても、先進諸国では随分前から顕著に人口が減ってくるこれは予見された状況でした。イギリスでは1990年代から、旧市街地の人口密度を高め、新市街地では交通結節点を整備し、地域間のネットワークを重視するなど、人口密度を高めることで効率的に地域の公共サービスを提供できる環境を作るための方策が提案されています。

日本でも、近年、居住や都市機能がコンパクトにまとまって立地するよう誘導し、分散する拠点間を公共交通で結ぶ立地適正化計画(コンパクトプラスネットワーク)が国交省によって推進されています。                     国交省「みんなで進めるコンパクトなまちづくり」パンフレットより

また居住誘導区域も特徴を持たせることで、それぞれの交流交通が生まれると考えられています。
しかし、誘導区域から外れ、どんどん希薄化していくエリアはどうするのかという問題が出てきます。
なかなか難しい問題ですが、新市街地の居住施設と等価交換するなどにより移転を促し、人口密度を上げる施策にも挑戦する必要があるかもしれません。しかし、人的交流のあるコミュニティーを潰すことにもなりかねず、行政による施策だけでは難しいと考えられるため、成功するかはこれからの状況を見るべきだと思います。
一方、東日本大震災では集団移転による復興の形を取った事例もあります。経費的な問題をクリアしないといけませんが、結果的に人口密度が増せば公共サービスは効率的に充実して行きます。社会構造の改変を伴う変革というのはそういうことであり、公共交通の将来的な一つの方向性になりうると考えています。しかしこれはハードルが高いことは言うまでもありません。

ー今の日本ではなかなか出来ないですよね。
交通手段選択と居住地選択という視点で考えてみましょう。
私たちが移動する際には、交通手段を選択します。その際、マイカーや自転車のような私的な移動手段もあれば、バスや鉄道のような公共交通もあり、時間やコスト、快適性などから手段を選択しています。しかし、それらが、環境負荷や安全性などを含む社会的な観点から適正な手段の分担関係になっているかというと、必ずしもそうではありません。
むしろ、モータリゼーションの進行とともに、マイカー依存の風潮が広まり、ガソリン代や駐車料金が高くても、時間がかかっても我慢してマイカーを利用する。それが渋滞を引き起こし、それを我慢するという悪循環が環境悪化や事故多発といった社会的問題を引き起こしました。
そうなると、言うまでもなく、社会問題を改善するためにマイカー利用を抑制しないといけませんが、今や、駐車料金も安くなり、公共交通の運賃に比して割安感さえ出てきている状況です。

人口減少が進み、移動量が減少してきている中で、その状況ですから、バスの利用者は減少の一途をたどり、地域公共交通の維持が難しくなってきています。将来、自分も歳を取り、免許返納まで言われ、車に乗れなくなるかもしれないのに、今はまだクルマがあるからと言っているうちに、あって当然だと思っていたバスがなくなるかもしれないのです。それが顕著なのがオールドニュータウンです。
ところで、選択という面では、居住地選択の問題があります。限られた予算内で、駅近だけど狭い家か、広いけどバス利用になるかということですね。年齢を重ね、社会状況も変化し、今があります。そういうことも併せれば、今の公共交通を維持するためには、居住者の、地域の問題として考えないといけないことになります。そのことを理解することが大事だと思います。

じゃあどうするのか、、、私の考える解決策は3つです。

1つは、先ほどお話しした、居住誘導によって人口密度を上げる、居住地の集積を図るといった都市構造の面からの対応ですね。
2つ目は、車が不利になる、バスに乗らざるを得ない環境を整えることです。例えば、ヨーロッパの多くの都市では都心への車の乗り入れができませんし、我が国でも長野県などでは一部の地域で自然環境保全のために公共交通機関以外の乗り入れを禁止しているといった事例があります。ヨーロッパ諸都市のような、人にやさしい環境政策を都市計画に反映させるといって取り組みになります。

この2つが不可能で、都市構造や車社会はそのままに、環境も変えず、公共交通を残すとなると、あとは、誰が公共交通を維持するのか、つまり、その財源を誰が負担するのかということになります。
端的に言えば、赤字経費を誰がカバーするか、これが3つ目の対応と言えます。それは、言うまでもなく、国や自治体による税金による対応か、コミュニティー自らで負担するかという問題になります。
まず、国による対応を考えてみましょう。1983年に定められたフランスの交通基本法をみてみると、「あらゆる人々が自由に移動できる権利としての交通権を持つ」ことが明記され、公共交通の維持は、国・自治体の責務となっているわけです。
イギリスは早くから公共交通の民営化を進めましたが、我が国のように独立採算ではなく、採算の難しい場合にはその経費の50%は公的補助により運行が可能となっています。高速道路が民営化されているは日本とは異なり、新たなバイパスなどの一部を除いてイギリスに通行料を取る道路はありません。道路は移動権を守るための公共物であるとして認識されているからです。

しかし、なかなか日本ではこの考え方は受け入れられていません。
ですので、コロナ禍での住民の権利を守るためには、臨時交付金が自治体に支給され、自治体に対策を委ねています。その際には、自由度のある交付金の利用が可能となったとしても、公共交通機関に使っていいかという市民の総意了解が必要になります。
次に、国の交付金を含めて市民全体で支えることも考えられます。例えば、最近、滋賀県では交通税導入の検討を始めました。
市民の合意形成が課題となることは言うまでもありませんね。

それも難しいとなると、行政の支援とともに地域の交通を地域で守ることになります。その好例があります。ある自治体では、路線バスの廃止に伴い、国の補助の下でスクールバスを導入し、それに混乗してもいいという取り組みを行いました。さらに、それでカバーしきれない時間帯については、収支率50%(自治体補助50%)を条件にデマンド乗合タクシーの試行が始められました。しかし、その条件の達成がなかなか難しい。結局、地元合意の下、50%に満たない部分については地域で負担することでその運行が継続されています。

国が公共交通機関の経費負担を法制化していない日本では、公共交通を残すためには結局誰が赤字を埋めるための経費を負担するかということになります。
とは言え、自治体で負担となっても、また、地域間格差も生まれやすいですね。
過疎地の交通を守るために、その他の地域住民から集めた税金を投下することにもなります。その時にはやはり地域がいかに公共交通機関を守ろうと努力しているかが問われると思います。頑張っているから、助けてあげようとなるんじゃないかと。

地域で勉強会を開催したり、会誌を配布したり、駅前に横断幕を掲げたりするなど、利用促進の活動をされている川西市の大和団地の事例があります。

ではどの地域でも自治会レベルで負担できるかとなると、地域内住民の年齢層の違いなどがあり、それほど簡単なことではないかもしれません。

色々お話ししましたが、根本的な問題は、前にも述べましたように、ヨーロッパのような移動権を確保するための公共交通の維持を定めた基本政策が日本にないことです。これが公共交通存亡の危機にある問題のネックとなっていると私は考えています。我が国でも、2013年に交通政策基本法が制定されましたが、そこには移動権の記載はなく、フランスなどの基本法とは似て非なるものと言わざるを得ません。
そういう状況の中で、地域住民の足を守るために抱えている公共交通の問題をどう解決に導くか。
そのために必要なのが、住民と事業者と自治体、3者がきちんとスクラムを組むことだと考えています。自治体が交通会議を組織して、3者が集い意見交換し勉強する場を作り、目的に向かって知恵を出し合って進んでいくことが大切です。そのことは、相互学習による相互理解と合意形成に至る「地域協働」の取り組みを具現化するものだと思います。

しかし、頑張ろうとしていた矢先にコロナ禍が日本を襲いました。

移動が制限されているわけですから必然的にバス事業者も疲弊しています。この厳しい状況下で、国が公共交通に目を向けているかと言われると決してそうではありません。

厳しい状況は続きますが、「何ができるか」の前に「何をすべきか」を考えて、これからも地域交通守る取り組みの手助けを続けて行きたいと考えています。

ー最後に、北摂里山地域循環共生圏について、一言いただけますか?
お互いのやりがい、生きがいがあってはじめて「共生」が可能になると思います。
人それぞれの目的があって初めて移動する必要性が出て来ます。ニーズなしにはサービスもできません。どうせ衰退していく、どうでもいい、という集落には何も生まれないし、そこをわざわざ空間的につなぐ必要はありません。とは言え、地域それぞれの資産を活かした活動が新たな移動ニーズを生む可能性は大いにあります。新たなモビリティの考え方にもつながるかもしれません。

今回、北摂里山地域循環共生圏のお話をお聞きし、西谷中谷東谷の地域間をつなぐ交通の問題解決というよりも、地域に希望を持たせる、地域が希望を持てる仕組みを作る、その一端を提示することが大事で、それが今後の交通サービスのあり方にもつながるのではないかと感じました。

ーありがとうございました。

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