お写真左より、ネッツトヨタ神戸(株) ネッツテラス猪名川 店長 露口 紀之(つゆぐち のりゆき)氏
/ネッツトヨタ神戸(株) 取締役管理部長 管理本部長 岡﨑 英徳(おかざき ひでのり)氏
/ネッツトヨタ神戸(株) CSR担当 チョイソコセンター長 太田 光俊(おおた みつとし)氏
ー地域交通の新しい形を猪名川町で実践されている「チョイソコいながわ」。
(猪名川町の地域交通への取り組み、本事業の経過詳細は、「猪名川町地域公共交通会議」のサイトに平成22年度から時系列に掲載されています。)
近接する川西市東谷地区におけるオンデマンド交通の実証実験がコロナ禍もあり頓挫する中、猪名川町は2020年5月から実証実験を開始。2021年7月には本格運行を見据えた有償での実証実験が始まりました。
今回は、「チョイソコいながわ」の事業主体であるネッツトヨタ神戸のご担当者様に事業の「行間」をお聞かせいただければと、日生中央駅に近接するオペレーションセンターにお伺いしました。
ーお忙しいところ申し訳ありません。よろしくお願い申し上げます。
早速ですが、「チョイソコいながわ」って何?なぜ「いながわ」?のところからお聞かせいただけますでしょうか
岡﨑氏ー
よろしくお願い申し上げます。
まず「チョイソコ」ですが、
「交通システム」と表記されているのが、基幹となるオペレーションシステム「チョイソコ」です。トヨタグループである株式会社アイシンが開発し、全国展開を図っています。2021年7月現在で約20自治体で運用されています。
このシステムを活用して、猪名川町にフィットした形にカスタマイズすることが「いながわ」の部分だと思います。この図にもあります3点が目標です。
・猪名川町の交通不便を解消し、主に高齢者の外出促進に貢献する。
・従来のオンデマンド交通と異なり、民間企業である私たちネッツトヨタ神戸が運営主体となり、自治体以外のエリアスポンサーからの協賛を得ることで採算性を向上させ、エリアスポンサーには停留所を付与する、このような事業サポートを行うことで継続性を高めます。
・単なる運行システムの提供に留まらず、高齢者の健康増進につながる外出促進の“コト”づくりをエリアスポンサーと共に推進し、地域内連携と住民連携を醸成します。
私どもネッツトヨタ神戸は、兵庫県東部地区に特化して18店舗を構える地域密着企業です。地域の繁栄なしには当社は成り立ちません。この想いの中、各店舗が地域にいかに貢献出来るかを日々模索しています。その中で、猪名川町に店舗を構えておりますネッツテラス猪名川が自治体様の抱える課題を共有したのが始まりです。
露口氏ー
ネッツテラス猪名川が猪名川町唯一のディーラー販社(除く軽自動車)です。私どもは日頃から地域の皆様と深くお付き合いさせていただいておりますが、自治体様との接点が少ないと感じていました。
2019年私どもは開店20周年を迎え、いろいろなイベントを開催しました。このイベントを通じて猪名川町様やNPO団体等とのお付き合いが深まり、その中で地域交通に対する地域の不安があることを知りました。猪名川町では、主に路線バスとコミュニティバスが地域内の公共交通ですが、利用者減による路線バスの赤字、減便や廃止、乗務員不足、コミュニティバスとの競合等地域交通の問題に頭を悩ませておられるとのこと。ちょうどこの時期に取引先様から「チョイソコ」のご紹介があり、これはお手伝い出来るのではないかと考え、猪名川町様にプレゼンテーションをさせていただいたのがスタートです。
ーまさにグッドタイミングですね。実証実験を始めるわけですが、色々ハードルもあったと思いますが
露口氏ー
当初1番の難関と考えておりました合意形成がスムーズに進んだことが、今回の導入につながった大きな要因だと思います。
既存交通事業者様である阪急バス様は、コア部分を除く利用頻度の低い周辺エリアを私どもが受け持つ形ですので、阪急バス様の課題解決ともなり、また競合とも考えられるタクシー業者様ですが、私どもと同じく町内では日の丸ハイヤー様1社でしたが、停留所間の移動ですので、本来のタクシー需要であるドアツードアの領域には踏み込んでいませんし、実際の運転オペレーションをお願することでウィンウィンの関係を築くことができました。事業主体は弊社、運行主体は日の丸ハイヤー様となります。
言い換えるとバスとタクシーの中間に位置する交通となりますので、3社の補完関係がうまく機能する形になったと考えています。
また住民の皆様の受け止め方は、地域によって少しずつ違いがあると感じました。そもそも路線バスのない地域では今回新たにサポートしますので、喜んでいただいています。路線バスが走っていたエリアでは、なぜだとのお声もいただきましたが、最終的には地域説明会でご理解いただけました。事業主体であるネッツトヨタ神戸の社員、岡﨑取締役と私が説明会に出て自らご説明したことが一番の理由だと思っています。
コロナ禍でなかなか人が集まれない状況ではありましたが、猪名川町様が非常に前向きに意欲的に取り組んでいただきましたので、実証実験をスタートすることが出来ました。
ー実際に実証実験が始まりオペレーションでもご苦労があったと思いますが
太田氏ー
この図の予約センターが、今お越しいただておりますこの店舗です。能勢電鉄日生中央駅に隣接しますショッピングセンター「日生中央サピエ」内に開設していますので、地域の皆様には看板をよく目にしていただいていると思います。
現在常時4名のオペレーターが、弊社が同じく本年1月より実証実験を始めました「チョイソコかこがわ」のオペレーションも合わせて対応しております。この予約センターですが、「チョイソコ」システムでは、アイシン様が行うことも可能ですが、弊社としましては地域の雇用創出にも貢献できると考え、自社で運用しております。
先ほどもお話が出ましたが、実際の運用は周辺部、町の北部と南部の2エリアです。
北部は、大島地区と主要エリアにつながる「杉生バス停」をつなぐ路線で、毎日7:00 ー21:00に運行しています。
南部は、阿古谷・松尾台地区と日生中央駅をつなぐ路線です。平日通常運行時間は、8:00ー17:00、土日祝日は運休しています。南部と北部の相互乗り入れは行なっておりません。
実証実験の中で、地域特性が見えてきましたので、実験結果を反映したタイムテーブルになっています。ご利用は買い物、通院、習い事でお使いの方が多く、小学生から高齢者まで幅広い年代にご利用いただいています。特に75歳前後の女性が多いです。この傾向は、バスが今までなかった地域で顕著に出ています。また、友達と同乗してチョイソコを利用される人が増えています。バスと違い時間の融通が効きますので、友達と一緒に買い物を楽しむ方も増えているのではないかと考えています。
2地域各々に私どもがご提供します1車両と日の丸ハイヤー様が乗務員1名が常駐し、予約システムが作った最適な運行スケジュールに基づいて運用しています。
北部地域では、大島小学校の小学生の登下校送迎にも利用されています。通学児童の人数に合った最大席数の車両を配置することで対応しています。
実際の稼働ですが、北部地域では、バスの発着時間に合わせて車両が動きますので、稼働する時間は短いです。地域の中ではなく「バス停に行く」「バス停から帰る」需要に特化されています。
南部地区では、午前中に買い物を済ませたいという需要が多く、地域特性があるなと感じています。
車両や運行時間、停留所等の制約の中で運行していますので、すべてご満足は難しいかとは思いますが、その制約の中で最適解を生み出す「チョイソコ」システムは優れたシステムだと思います。顔認証システムを新たに導入し個人認証をスムーズに行うことでサービス向上を図るだけでなく、チョイソコいながわの乗降情報を活かした見守りサービスとしての活用も検討しています。実証実験では電話コールのみでしたが、7月からはスマホでも予約を受け付けています。
ご利用者の皆様がご満足いただけるよう引き続き私どもも努力して行きたいと考えています。
ー自治体、既存交通事業者、住民の皆様の課題解決にタイミングよくハマった、サイズ感もフィットしたある意味幸運なプロジェクトだと感じました。「幸運なプロジェクト」なかなかないですよね。
利益追及を目指す民間私企業である御社が公共交通に踏み込まれた訳ですが、事業継続のポイントはどのようにお考えですか
岡﨑氏ー
住民の皆様の日々の活動を支える移動、公共交通を担う訳ですから、運行が滞ることは絶対に許されません。覚悟を持って取り組んでいます。
また継続するためには、自治体の経費的サポートをベースとしながらも、事業を充実発展させなければなりません。やはりサポーターが必要です。多くの皆様と連携しスポンサーを含めサポーターを増やして行きたいと考えています。
先ずはお店の前に停留所があるというのは大きなアドバンテージになると考えていますが、無償期間に利用頻度が多いだろうなと想定し設置した停留所を、有償になりましたのでスポンサーになってくださいというのも、なかなか難しいですね。現在86箇所の停留所が設置されています。
移動を促進する、地域活動を活性化する核となる「そこに行きたい」コトづくりが欠かせません。地域の店舗や事業者の皆様と一緒に独自イベントを企画開催するなどのコトづくりに励みます。
また地域の事業者様を活性化する「ここに来て欲しい」の要望をうまく私どもの事業の中で告知します。例えば、ネッツテラス猪名川店独自イベントでご紹介したり、お店情報などを月に一回配布しています会員向け会報誌「チョイソコいながわ通信」に掲載する、また顔認証システムの画面に表示したり、車両内でチラシやクーポンを手に取っていただけるなどスポンサーの露出を後押しする取り組みを進めてまいります。
事業者の少ないエリアはスポンサーを集めることが難しいことは否めません。またコロナの現状からもなかなか面談の機会が作れないのも事実です。息の長い活動が必要だと痛感しています。
私どもが「チョイソコ」を事業として継続させていくためには、効率化によるコストダウンを実現するために事業自体の広がりも重要です。今回、猪名川町様での取り組みに加古川市様が興味を持たれ、先方からアプローチをいただきました。2021年1月より「チョイソコかこがわ」の実証実験を開始しております。
私どもネッツトヨタ神戸は、「お客様と地域、そして社員の『幸福の量産』のために!」をスローガンに、「ネッツトヨタ神戸のお店がここにあってよかったと地域の皆様に言っていただける店舗、会社になりたい。」を具現化すべく全店舗が取り組んでおります。地域発展こそが弊社の基盤であり、地域貢献こそが弊社の基幹です。
私どもが関わることで、猪名川町がより元気になり、住民の皆様がより幸福を感じていただければ、それこそが私どもの幸福となります。
今後とも猪名川町の皆様の幸福のために全力で取り組んでまいります。ーありがとうございました!
交通機関に携わる責任と覚悟を皆様のお言葉の行間に感じるインタビューでした。
地道にしかし確実に進めて行く粘り強いモチベーションが、公共交通を支えていると再認識しました。
珈琲の美味しい行きつけの喫茶店がお隣ですので、これからも進捗をお聞きしたいと思います。(T.Mi)