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インタビューず

公益財団法人 地球環境戦略研究機関 関西研究センター所長  鈴木 胖 氏

鈴木 胖(すずき ゆたか) 氏
工学博士(大阪大学)/大阪大学名誉教授
大阪大学大学院工学研究科電気工学専攻修士課程修了/昭和35年 大阪大学助手(工学部)/昭和40年 大阪大学講師(工学部)/昭和42年 大阪大学助教授(工学部)/昭和47年 大阪大学教授(工学部)(平成10年退官)/平成10年 摂南大学教授(工学部)(平成12年退職)/平成12年 姫路工業大学学長(平成16年退職)/平成16年 兵庫県立大学副学長(平成22年退職)/
平成18年 財団法人地球環境戦略研究機関関西研究センター所長(現在は公益財団法人地球環境戦略研究機関関西研究センター)

ー地球温暖化が進んでるんだなーと肌に感じる暖かい1月、人と防災未来センター東館にお伺いした。

ーお忙しいところお時間をいただき申し訳ありません。よろしくお願い申し上げます。
ー持続的成長にいち早く警鐘を打ち鳴らした書 ローマクラブ「成長の限界」(1972)に、訳者としてに関わられましたが、どのような経緯というか流れがあったんでしょうか?
それは長い歴史ですよ(笑)。小学校4年生ぐらいの時、父親が海軍兵学校出身で一時パラオの南洋庁に所属していたんですが、パラオと当時住んでいた横須賀の間を川西航空機の水上飛行艇で海面すれすれをノンストップで往復していたようです。たまたま駐機中の飛行艇に父親が私を乗せてくれたんですが、内部がなんと二階建て、すごいものだなーとエンジニアに憧れたのが初めだったような気がします。

それで電気に興味を持って、大阪大学工学部の電力工学を学び、大学院では典型的な制御機構であるサーボメカニズムを研究しました。当時いい教科書がなくて、「Theory of Servomechanisms」を何度何度も読んだんですが、そこでネガティブフィードバックのフィーリングを掴みました。この制御理論は工学だけではなく広く社会に役立つ理論なので、私は分野にとらわれることなく広く演繹的に適応発展させていきました。システムを制御するためには、システムの複雑な因果関係を数式化モデル化することが重要です。制御しにくい社会システムをどう単純化し数式化するかにも生かされています。結果的に社会システムやいろんな分野に入っていったので、工学部だけど工学部じゃないような(笑)。

振り返るともう一つ原体験があります。戦時中、和歌山県の田辺に住んでいたんですが、終戦直前の1年くらいは漁ができずに海の中は魚がそれこそウヨウヨ泳いでいました。それが終戦するとあっという間に魚は取り尽くされて、人間とは貪欲なものだなと気付かされました。社会を野放しにせず制御することの何か大切さみたいなものを感じていたのかもしれません。

そのバックグラウンドの中で、「成長の限界」に出会いました。

当時、二酸化炭素の問題を日本から啓発していた名古屋大学の真鍋淑郎先生にお話をお聞きしたりしていたので、地球の有限性よりも二酸化炭素による気候変動がより大きな危機だと感じていました。まさに子供の頃、海で感じた人間の貪欲さの現れですね。貪欲さには限度がありません。「70の理論」というものがあります。70を成長率のパーセントで割ると倍増する期間が予測できるというものなんですが、例えば増加率5%だと14年で倍増する。いろいろな成長を計算するとその成長の早さが実感でき、早さが持つ怖さも、無限の成長があり得ないことも感じることができます。

ー環境問題には多くの課題があると思います。その中で二酸化炭素問題に注目されているのはなぜですか?
システム工学の基本は原因をシンプルに特定する事。今の世界を支えているのはエネルギーであり、化石燃料です。言い換えると成長を支えるのは化石燃料であり、化石燃料起因の二酸化炭素の増加は必然となります。この増加を食い止めなければ人間社会の存続は望めません。化石燃料を代替するのは再生可能エネルギーしかないと考えています。再生可能エネルギーにはコストの問題がありますが、技術進歩とともに下降しています。実際世界的には転換が進んでいてデンマークやイギリスでは40%程度の転換実績を上げています。しかし、日本ではまだまだお茶を濁している程度ですね、10%行かないレベルだと思います。

日本では再生エネルギーとして今、太陽光がメインになっていますが、設置するのに面積が必要ですので平野部の少ない日本では限界があります。水力も然りですね、そこで私が注目しているのは風力です。風は温度差で産まれますから必ずいつでもどこでも吹いています。太陽光は昼間だけですからね。海岸線の長い日本は風力に適しています。陸上でも北海道は最適、風力の宝庫ですね。技術も劇的に進歩しています。世界の風力発電技術企業が日本に注目し始めたところです。

風力発電で最も進んでいるのがデンマーク。オイルショックの際に、デンマーク政府は風力発電に切り替えることを選択し、いち早く風力発電に研究投資しました。中でも洋上風力の世界最大の企業であるVestas Wind Systems A/S、は、三菱重工との合弁会社MHIVestasはを作り、世界トップクラスの実績を上げています。現在実用化されている最大8メガワットの施設の羽はジャンボジェットの全長が一枚の羽、ブレードにすっぽり収まるサイズです、ブレードの長さが80m、頂上部の高さが105mの巨大なもの。(プロペラが1回転するだけで、平均的な家庭のまる一日分電力をつくり出すという。)
技術はどんどん進んでいます。風に合わせた風車がどんどん進歩し開発されています。
世界で見ると日本は風力の弱いエリアです。風車が回り始めるカットインから、ある程度以上になると柳に風で自然に任せてしまうフリーな状態、カットアウトまでを発電に使っています。風の向きにも強さにも合わせて安全に羽を制御している、まさに制御の塊(笑)。

ーお聞きしてますと、風力がいいなと思い始めました(笑)。昨年のCOP25を見ても日本では環境問題への取り組みが進んでいない印象ですが。
日本は遅れていますね、全体を俯瞰する視座に欠けている。エネルギーの問題は、日本列島全体をひとつにして対応しなければならない、しかしそれが出来ていない。日本のエネルギー問題の最大のネックは何か?送電線にあります。適地に集中的に再生エネルギー施設を建設設置出来ても供給を平準化するには、日本全土をフラットにスムーズにつなぐ送電網が必要です。最も重要なエネルギーのインフラは、電力会社ではなく国が管理し運用すべきです。今電力会社解体論が出てきていますが、喫緊の課題ですね。色々細かい技術的な問題やコストもありますが、抵抗勢力や思惑も絡み、思い通りには進んでいないのが憂うべき現状です。
しかし、企業は変わりつつあります、RE100に加盟する企業も増えて加速度がついてきています。
結果的に企業が必要とする再生エネルギーへの需要は飛躍するのであって、太陽光ではキャッチアップできない、その点でも風力が日本では最適ですね。

ー日本が目指すべき成長の形は?
これからの成長は「もの的成長」ではなく「知的成長」の方向にシフトしていると感じますね。ものを作る限り資源が必要であり、それが逼迫する現状では、知へのシフトは自然の流れだと思います。

成長の視点で見ればある意味世界との競争であり、したがって問題はスピード、速度感にあります。「知的成長」分野でも日本は遅れているスピードが遅い。多くは制度的な問題、制度設計の問題だと思いますね、政治というか政府というか政府を支える経済界というか。世界に追いついた重厚長大な考え方を未だ引き摺ってシフトチェンジが鈍い。日本は貧しくなってきた感じがしますね。

環境問題を解決し、持続可能な成長を実現するためには、視座の高い長期的視点を持ち、世界に伍したスピード感のある制度設計と実行力が必要だと痛感しています。

ーありがとうございました。

わかりやすく情熱を込めてのお話に、大学に戻りたくなった60分でした。
principleを持つことの大切さを合わせて教わった気がします。
「成長の限界」の最終章「ローマクラブの見解」結びの言葉、
『問題の核心は、
人類が生き残れるかどうかにとどまらず、無価値な存在に堕することなしに生き抜くことができるかどうかということである。』
発刊から50年弱、今私たちは、人類の存在価値を問われているのかも知れません。
(T.Mi)

 

 

 

兵庫県環境管理局長 菅 範昭 氏 

川西市黒川 今西菊炭本家 今西 学 氏

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