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インタビューず

神戸新聞社 論説委員 辻本 一好 氏

辻本一好(つじもと かずよし)氏
1991年3月、神戸新聞社に入社。経済部などを経て、2011年3月から論説委員。3年間社説を担当した後、社会部、経済部を経て、18年3月より、再び論説委員に。主に環境、エネルギー、農林水産業、災害など分野の社説を受け持つ。神戸新聞社が事務局を務める「地エネと環境の地域デザイン協議会」のコーディネーターを担当する。
地エネと環境の地域デザイン協議会
太陽、水、森林などから得た自然エネルギーを生かした地域づくりが兵庫各地に広がっています。エネルギーの視点で地域資源を見直すことは、環境と農業、食のつながりへの理解を深め、地域の課題解決や将来像を描くための手がかりとなっています。そうした取り組みから得られた知見を共有し、しなやかな自立力を持つ地域の創造を目的とした「地エネと環境の地域デザイン」事業が2018年度よりスタートしました。農、食、エネルギーに関わる人々、そして子どもたちが未来の地域デザインに必要な発想を育み、磨いていくための場となる事業を展開しています。

ー兵庫県内シェアナンバー1、創刊121年の地元紙、神戸新聞社御本社にお伺いしました。

ー「地エネと環境の地域デザイン」事業を始めるきっかけといいますか、ここに至る変遷は
 神戸新聞には農林水産という経済部伝統のページがあります。私は1998年から計3回、約10年担当しました。人と自然の接点である農林水産というフィールドで課題の解決や地域づくりに役立つ情報を提供するために、食の安全、環境、防災など視点を広げ、掘り下げる中で到達したのが「エネルギー」というテーマでした。

「エネルギー」という問題の重要性を考えるようになったのは、2011年3月の東日本大震災と東京電力福島第一原発事故がきっかけです。当時、私は論説委員になったばかりの時で、4月7日に東北の被災地に取材に入りました。初日の取材を終えて休もうとしていた午後11時半ごろ、震度6強の最大余震が起きました。宿泊していたホテルも激しく揺れ、他の宿泊客と同様に身の安全確保と寒さをしのぐために駐車場の車に避難していると、ラジオから信じられない情報が流れてきました。東北全域の400万世帯が停電する中、福島第一以外の東北各地の原発も電源喪失しているというのです。
メルトダウンという言葉とともに体に戦慄が走りました。そして、街の普通の電気と同じように原発の電気まで一斉に失われてしまうという、あまりに脆弱な電力システムの現実にあぜんとし、絶望的な気持ちになりました。私たちが暮らしと経済を委ねている電力会社の

一極集中管理型システムのもろさ

を思い知った時でした。福島第一のような破滅的な事態を辛うじて回避したにすぎません。

夜明けとともに、最後の命綱となることを知ったガソリンを得ようと、地震でできた道路の段差に注意しながら車を走らせましたが、スタンドはどこも長い車列。コンビニの食品はほとんど売り切れ。大震災から約1カ月で復旧した東北自動車道が再び通行止めとなって物が届きません。電気と物流が止まるとお手上げ。便利さ、効率性を追求した大量生産・一極集中システムの代償に失ったものが「自立力」であることを痛感しました。それと同時に「分散型システム」への転換のための

エネルギー視点の必要性を強く感じました。

―エネルギー視点とは
 日本は、海外から原料を輸入して付加価値の高い加工品を売るというスタイルを長く、当たり前のこととしてきました。しかし、これはいろいろ恵まれた条件もあって成り立っていたわけで、輸出競争力が落ちる中、基本スタイルを考え直さねばならないところにあると思います。まず目を向けるべきは、毎年20兆円以上もの化石燃料を中東などから買っていることです。このエネルギーととともに、食料を長く海外に依存してきたために、地域資源を利用する技術と経済循環を失い、国土の荒廃を招いています。

例えば、日本は森林が国土の3分の2を占める森の国です。しかし、オイルショックを受けて、欧州の森林国が木を燃やして熱や発電に使うバイオマス技術を発展させたのに対し、日本は輸入原油などにエネルギーを頼る政策を続けてきました。その結果、木を燃料にするためのボイラーや発電施設の技術力で大きな差がついてしまった。同時に必要な伐採を行わないために、森林は荒れて保水力も失い、水害が多発する要因となってしまっています。同様に、ゴミとなる食品残渣の有機物を原料とするバイオガスや小水力など他の自然エネルギーでも技術的な差をつけられ、多くが海外製に頼っている状況です。身のまわりの地域資源に目を向けてこなかったことで、生かす発想やノウハウが脆弱になってしまった日本の現状とまず向き合わねばなりません。

―地域資源の問題は地域で解決できるんでしょうか。
 地域の人が自分たちに必要な情報をどう得るのかという、情報に関する問題も克服する必要があります。私は

情報というものは、食べ物のように「満腹」になってしまうものだと考えます。

情報にはもともと、発信が東京に一極集中する問題がありました。それに今はネットやSNSが加わって、情報があふれています。そうした情報でそれぞれの人の情報を受け入れる容量がいっぱいになってしまい、その人に必要なはずの地域の情報が入る余地がなくなってしまっているような状態にあると思う。

アマゾンなどGAFAに象徴される暮らしと経済全体をのみ込むグローバル企業の支配が強まる中で、何も手立てしなければ、どんどん地域経済は縮小し、お金と人は地域から流出してしまいます。地域が存続するためには、未利用の眠れる地域資源を上手に生かして経済を生み出す知恵と戦略が求められます。地域に欠けていたエネルギー視点はその鍵となる。しかし、情報があふれる時代にただ情報を流すだけでは必要な人に地域の情報は届かず、視点も得られません。地方紙に携わる者として、こうした情報を巡る状況にどう対応すればいいのかと考える中で、情報を提供するだけでなく、知るための場づくりが必要と考えるようになりました。

そうした思いから、2014年3月に経済部に戻り、デスク兼務で3回目の農林水産担当になった際に、「地エネ新エネやってます」という連載を始めました。地域や企業で自然エネルギ-事業などに取り組む人を紹介する内容で、兵庫に関連したエネルギーの情報を提供すると同時に、連載で紹介した人や現場を訪ねるツアーをグループ企業の神戸新聞旅行社とともに始めました。新聞社内の他部署のメンバーとも連携して、連載をコンテンツとした多角的な事業に取り組む体制も整え18年4月には、NPO法人都市型農業を考える会、JA兵庫六甲、JA兵庫信連、兵庫県、神戸市、神戸大学、コープこうべの有志とともに、自然エネルギーの普及を目指した「地エネと環境の地域デザイン実行委員会」を発足させます。地域のエネルギー利用をテーマとしたシンポジウムやツアー、自然エネルギーの防災活用のイベントなどを展開した後、今年7月には

意欲ある人と情報のプラットフォームを目指す

「地エネと環境の地域デザイン協議会」へと発展させました。

ー地域が新しいデザインを描くために求められるものは?
 それぞれの地域が発展するための原型を造った先人たちの地域デザインを知ることがまず必要と考えます。先人が地域の自然に手を加える上で基本としたのが、エネルギーと水をいかに有効利用するかということでした。例えば、但馬では、山の半分が草原に活用されていました。今では想像しにくいですが、スキー場のように山上まで草に覆われた場所がたくさんあった。それは但馬牛のえさとなる草を得るための場所だった。険しい山々での物資の移動や棚田の耕作に欠かせない但馬牛という動力を確保するために、但馬の人が行き着いた資源利用のデザインでした。山のもう半分は薪や炭というエネルギーを得るための山林にしていました。一方、摂津の先人たちは、水力という自然エネルギーを最大限に生かすことでまちを大きく発展させました。神戸から西宮にかけて六甲山から流れでる急流に水車を数多く設け、その力で菜種の油をしぼり、酒米の精米に活用したのです。

地球温暖化防止のために地域資源を生かした自然エネルギーによる地域づくりに世界各地が取り組む時代に、こうした先人たちの地域デザインを見直すことは非常に価値があることだと思います。但馬牛や神戸ビーフ、灘五郷の日本酒を子どもたちや海外の人々に正しく伝えるためにも、こうした優れた食文化を生み出した自然エネルギー利用の歴史を理解することが欠かせません。先人の発想や精神を受け継いで、現代の新しい技術で地域の資源とエネルギー循環のデザインを描き直すのが今の世代の役割だと思います。

ー北摂の菊炭、日本一の里山も同じですね

手掛かりとなるのは地域課題。

 里山は、薪や炭に適したコナラやクヌギなどの木々を有効利用する中で形づくられました。しかし、戦後のガスや石油、電気などのエネルギー革命によって、一気に価値を失い、各地で荒廃が進んでいます。一方で、地球温暖化や自然エネルギーへの関心の高まりから薪ストーブなどが広がり、薪や炭を使って料理する自然志向のレストランなども増えている。里山の保全という地域課題を解決するために、こうした地域の需要と里山を積極的に結びつけることが必要です。北摂は都市と農村が近接しているので、資源とエネルギーの新しい循環を描くための条件がそろった地域だと思います。木や炭を使って料理している地元のレストランが遠くから仕入れるのではなくて、地元の木炭を使うことで地域の里山の木々の手入れにつながる。そうした地域資源が循環させる経済は地域の魅力となる時代です。日本を代表する里山文化の情報発信につなげたいですね。

地エネ事業で力を入れているものの一つにバイオガスがあります。農業・畜産から食品産業、レストラン、下水道まで、人の食の営みに伴って必ず発生する有機物の廃棄物を発酵させて熱や電気を生み出すメタンガスと肥料となる消化液を得る取り組みです。食に関連する現場では共通の課題ですが、所管官庁が農業は農水省、食品作業は経済産業省、下水道は国土交通省というように縦割りで分かれています。このため、横のつながりがほとんどないのですが、地エネの実行委員会で、農業と食品、下水道の3者がそろうシンポジウムを開催することができました。

新しい地域デザインを描くためには、こうした従来の縦割りを越えて、情報と人が集う機能と場を持つプラットフォームが必要です。地域の情報拠点である新聞社が、そうした新しい時代の要請に応え、地域のみなさんとエネルギー視点を磨きながら、子どもたちが誇りを持てる新しい地域の形をつくりだしていけたらと考えています。

ーありがとうございました。

こちらの拙い話をうまくリードしていただいて、お話を纏めていただきました。
情報発信、言葉で生きている人のすごさを見せていただき、
こちらが勉強ばかりのインタビューでした。
反省と感謝しきりです。
(T.Mi)

 

コープこうべ 岡田卓巳氏 鬼澤康弘氏 大谷常雄氏

能勢電鉄株式会社 取締役社長 城南 雅一 氏

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