島田 勇巳(しまだ はやみ)氏
有限会社 紋珠 高槻バイオチャーエネルギー研究所 所長
1959年大阪市生まれ
1982年大阪芸術大学芸術学部建築学科卒/1982年株式会社クボタハウス大阪。設計営業担当/1986年株式会社アイ・エフ・プランニング。企画・デザインを担当/1997年株式会社フォンタアジュ。戦略企画を担当。大阪事務所長、執行役員
2003年6月独立 有限会社紋珠設立/2006年オーストラリアに現地法人を設立/2012年高槻市環境審議会委員就任/2013年大阪市立大学大学院創造都市研究科都市経済政策分野修士修了
2013年4月高槻バイオマス粉炭研究所(後に高槻バイオチャーエネルギー研究所に改称)設立/2018年「一般社団法人 里山資源エネルギー研究所」設立/2020年「無動力炭化平炉」に関する特許取得。 登録No.6755575
ー長い梅雨に入った薄曇り、亀岡市京都市との市境に近い製炭炉にお伺いしました。
ーよろしくお願い申し上げます。早速ですが、バイオチャー、バイオ炭との出会いについて教えてください。
よろしくお願いします。
略歴見ていただくと分かりますが、私自身は企画デザインの会社に約4半世紀の間勤めていました。一念発起し、企画デザイン会社を設立独立しました。独立当初は色々模索していたわけですが、バイオ炭に関わるきっかけとなる出来事がふたつありました。そこで大きく舵を切ったわけですね。
1つは、たまたま紹介いただいた大手住宅メーカーとのプロジェクトで、北海道紋別の自社林から切り出した建築資材を使った住宅を作る、ついては端材を生かす家具作りのブランディングをとのご依頼を受け現地調査し、今まで全く知らなかった森林環境の危機的な状況を目の当たりにしたことです。なんとかしなければと強い問題意識が生まれましたし、合わせて、これは自分のノウハウを活かすと解決できるんじゃないかなとボアと思いました。
同時期に相前後して、企業のためではなく違ったフィールド、地域で自分を生かしたいと思い大学院で地域活性手法を学んでいたのですが、これもたまたま社会見学というか事例研究で島根県のバイオ炭製炭会社に炭化炉を視察に伺いました。「これだ!」と出会った感じでした。地域のさまざまな未利用材を炭化することでエネルギー化し、資源を循環させる「炭化力システム」を構築しようと、2003年に二次創業しました。
ーある意味畑違いに飛び込んだ感じですね。
問題意識というか課題に対するものは一緒でもアプローチを自分らしくという点で、企画デザインのノウハウや考え方がうまくいかせているなと思っています。技術ばかりではなく、かといってマーケティングだけでもない、ふたつを繋ぐところに私がいる感じでしょうか。製炭というと文字通り硬い事業風土ですので、今までにないアプローチじゃないかと思っています。それだけに色々紆余曲折ありましたが、バイオ炭にはますます可能性を感じています。
ーそこよろしくお願い申し上げます。
まずは自分で製炭炉を作らないといけないわけですが、いろいろな出会いや行政の手助けもいただいて、この場所に今も稼働している中型の平炉を作りました。縄文時代からの製炭方法ですので、無動力、エンジン等機械を使っていません。電気ガスなどのエネルギーも必要としません。土窯と違って初めから最後まで工程を目視できることもあり簡単に大量の炭を作ることができる特徴を持っています。また約800度で製炭していますので、植物性由来であれば材料を選びません。
実際に炭を作り始めると、ここでもいろいろな出会いが生まれて行きました。自分でも信じられないくらい思いもよらない可能性が広がって行きました。
私自身は、当初農業ハウスの暖房や温浴施設での活用が一番だと思っていました。それと土壌改良材ですね、土からできたものは土に還す。しかし、多くの人がここにお越しになり話をしてみると、どんなものが出来るかではなく、どんな困りごとがあってどう解決するか、炭化力を真ん中にしたソリューションビジネスだな、面白いなと思い始めました。
植物由来のもので単に廃棄する、ではなく環境に優しく社会のために生かしたい、そう考える多くの人たちと出会いました。入り口になるものは農業残渣や間伐材等に止まりません。ジーパンの製造会社の方が端材を生かしたいと訪ねて来られました。海洋プラチックをなんとか出来ないかとお話をいただき昨年プロジェクトに参加しました。牡蠣の養殖者から蠣殻をどうにか出来ないかとか。入り口はすごく広いな、自分から決めつけないほうがいいなと思います。これも出会いですね。
ー入口があると出口がありますね。
出口は、大きくは2つ。
1つは、循環型「炭化力発電システム」です。
先ほどお話ししました温水を作って供給する、にとどまらず、約5500kcal/kgの石炭より高カロリーな約6000kcal/kgを超えるバイオ炭の特性を生かした発電システムです。地域で発生した処理材を資源化し、地域に生かす、合わせて地域の防災に生かすシステムです。
もう1つは、
炭本来の炭化力です。土壌改良材や融雪材、調湿材や消臭材での出口がありますが、もう少し進めて炭自体を生かした「地産地消の炭の商品化・ブランディング」にトライしています。
私自身今までに色々な地域の資源を炭に変えてきました。例えば、「大量の籾殻(新潟)」「ゴルフ場の芝(大阪)」「サトウキビの搾かす(沖縄)」「牡蠣イカダの竹(広島)」「茶葉(京都)」「梅の種(和歌山)」「梨の実(富山)」「サザエ(三重)」など様々な資源を製炭しています。
北摂お膝元の兵庫県川西市では、「イチジクの選定枝」を製炭し今後も展開する予定です。
出来た炭の「顔」を生かしてブランディングし商品化出来ないか、商品化していこうと考えています。
身近なバーベキューの炭も残念ながら海外産です。もっと地域の炭で地域の食材を楽しむためにも地産地消を打ち出し「LOHASumi」としてブランド化し差別化することに取り組んでいます。
このふたつどちらもキーワードは「地域の困りごとを解決する」ことですので、目指す地域循環共生圏の有意義な事業になって欲しいと思っています。
ー地域を巻き込む仕組みとしてはどのようなことを考えておられますか
このノウハウをさらに地域に広めるには、「施設」ではなくリースやレンタル可能な「設備」にする必要があると考えています。地域行政を巻き込むにも必要なことだと思います。
そのために従来のシステムを移動可能なものとした平炉タイプと
よりシンプルな土窯タイプの移動型製炭炉を開発製作しました。
ー土窯タイプいいですね、わかりやすくて、自分のお困りがどう解決するかイメージしやすいですね。
行政の方含め、見に来られた方の反応もいいですね。多くの引き合いをいただいています。二次燃焼装置も付けていますので、煙や臭いも少なく約800度の高温も得ることが出来、発電にも使えます。また窯の中に材料の入ったケージを入れるわけですが、限度はありますが原型を残しつつ炭化出来ますので、その点製品化のイメージも湧きやすい。製炭期間もほぼ1日で製炭します。平炉は水を使いますので、10日。温度は平炉が少し高く出来ますね。
この窯を作るアイデアは、海洋プラスティックの炭化を考える過程で出会いました。
今日もパイナップルとコーヒーの搾りかすをバイオマス資源にという話で海外とリモートで結んで会議をしていました。困りごとに国境はありませんね。
電力問題を見ても、見える化出来ないと自分ごとが出来ません。大きなシステムの太陽光や風力は全体のサイクル、循環が見えません。明治時代にエネルギーが官製に変わったのが大きい、自分たちの手からエネルギーが失われた。このバイオマス発電は、サイズが小さいだけに地域に存在するだけに自分の目で確かめる事が出来る。環境問題を解決するにはこの見える化に紐付いた自分ごと化が必須だと思います。
ーそこは本当に大切ですね。この20年、振り返っていかがですか?
もともとソフト系デザイン系だったので、今回目に見える自分しか持っていないブツ、平炉を持った事が大きかったですね。そもそもバイオ炭にハマったのは、高カロリーに惹かれたからです。その魅力を見える化するにはこの平炉が絶対に必要でした。ブツを中心に世間が動く様が初めての経験だったので面白かったです。
また社会環境も、温暖化や広い意味での環境問題、地域循環など社会自体が一緒に変化した、不思議とうまく社会の需要、時代にマッチしていたのではないかと思います。
20年、本当にいろんな人と出会いましたが、今振り返ると不思議に無駄なく全てが繋がってたなぁと思います。最近は自分の磁力がさらに強くなっていると思います。自分の期待以上に広がり出会いが自然発生的に生まれていることが面白いですね、あの人がこの人とつながっていたみたいな。出会った人が何かしら気付いてくれる事、困った事を持っている人の受け皿になれる事が幸せですね。
ージョブスの”Connecting the dots”ですね。次の挑戦は?
挑戦すると言っても、困った人にキャッチアップしていくことで、個人的には大きな話ではなく、着実に地に足のついた仕事、地域をサイズにした仕事、出口まで含めた循環するシステム作りをしていきたいと思っています。
各都道府県に2箇所の実績炉を持つこと、そして海外含め離島の需要を掘り起こしたいと思っています。ある意味離島はオフグリッドですからね。離島で成功する事が良い目標になると思います。離島では水の問題も解決しなければなりません。「ガンジス川の水が飲める。」と言っていますが(笑)、炭を活用した浄水システムを考えています。地域由来の手に入りやすい材料で炭を作って熱湯を作り、炭と砂を通してろ過するシステムです。この浄水システムは、JICAさんと一緒に取り組んでいます。また離島を取り巻く海洋プラスティックの問題は大きいですよね、炭化力を中心にしたリサイクルのシステムを作りたいと思っています。
まだまだ夢は尽きません、この3年はフルパワーで勝負しようと思っています!
ーありがとうございました!
ー内容の濃い、しかしいつものごとく寄り道の長い楽しいインタビューでした。
別れ際に「出会い頭も出会わなければ出会わないよ。」と
コロナ禍を理由にあまり出歩かなくなった私には深く頷く言葉でした。ありがとうございました。(T.Mi)