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インタビューず

川西市黒川 今西菊炭本家 今西 学 氏

今西 学(いまにし まなぶ) 氏
昭和46年生まれ。今西菊炭本家

ーこれぞ「日本一の里山」パッチワークの景観が映える川西市黒川のご自宅にお伺いした。

ーお忙しいところ申し訳ありません。よろしくお願い申し上げます。
いまちょうど、茶道についての映像を撮るのでNHKの取材が入っていて、今も山に入っていました。

ーいきなりですが、里山って何でしょう?
とにかく放置林は里山ではないですね、萌芽再生している山のことだと思います。萌芽再生している山を多く持っていることが、この黒川地域を日本一と呼ぶ一つの所以じゃないかと思います。じゃあ里山を広げればというと、何十年もほったらかしの山の木を切っても萌芽再生しません、里山には戻れないんですね。若い時に、クヌギで言えば40年までの木で伐採しないと再生しません。楢の木では40年ではもう再生しませんね。戦時中B29が撮影したこの地域の写真があるんですが、それを見ると全山で炭が焼かれていた、炭のために伐採していたことが分かります。一庫ダムに写真がありますが。こんな奥まで、こんなところまで切ってるのかとびっくりします。何の木でも炭にしてましたからね。当時は山の中で木の近くで釜を作って炭を作ってましたが今は名残はありません。クヌギでできる炭は他の木でできた炭よりもいい炭、「上炭」と呼ばれていました。そのためクヌギはもともと炭のためにこの地に植林されたものなんですね。ですから昔から管理が行き届いていました。そのクヌギ林も、だんだん管理の手が入らなくなり今に至っている状況です。昭和30年くらいから放置された山が増えてきました。現状では、私が入っている山のみではないかと思います。

ー炭を焼くためのクヌギ林の管理の現状は
昔は下刈りをしていましたね。笹を牛の餌に、柴は風呂とか飯炊きの燃料にしていました。でも今ではそんな燃料は必要ではないので、下刈りはしませんね。クヌギでは、10年に一回は最低蔓を切ったりの世話をしないといけません。できれば萌芽再生して5年目に入るとちゃんと成長します。私たちで長く入ったいる山でも少しずつはダメになりますが、3割ぐらいは鹿の食害でクヌギが全滅しました。言い換えると下刈りとか間伐ではなく、鹿をどう管理するかが問題です。                     敷地内にある樹齢約300年の台場クヌギ

今年伐採に入っているところもそうですが、鹿の害を防ぐために、鹿の届かない高いところで枝を切っています、所謂「台場クヌギ」ですね。しかし、同じ高さでは切れません。切ったすぐ横から枝が生えてきますので、少しずつ前に切ったところよりも10センチでも高いところで切らないといけません。その分年々作業の危険性が高くなってきます。

ー鹿の害は昔からあったんですよね。
放置された古い木はドングリをつけないんですね、管理している山はドングリができるので、鹿が食べに来ます。草も若い芽も食べてしまいます。管理されたエリアが狭くなったので、結果的に管理されたクヌギ林に鹿が集中することになります。鹿に食べられるので、クヌギを切らないでくれという山もありますね、ドングリや若い芽ができると鹿が食べて結果的にはげ山になって山崩れになるなどを恐れておられてと思います。電気柵も試しましたが、柵の間を電気線に触れずに鹿が飛んでスパッと通り抜けるんです。地面のマイナスと電気線のプラスと両方に触れないと効果がないんですが、鹿は飛んでますからね。かえって柵ごとポールを根こそぎ折っていきます。ネットを張るのがいいんですが、エリアが広すぎますし、イノシシが破ります。イノシシは、山に対してはほとんど害はありません、畑には害がありますけどね。でも獣道を遮るものは、強力な歯で穴を開けていきます、その後ろを鹿が通る。鹿の絶対数が増えていますので餌がない。餌がないので必要に迫られて進化しています。なんでも食べるようになっていますので、害は大きく広くなっています。
クヌギの新芽は美味しいらしいですが、昔は食べなかったんですよね、加減してくれるんだなーと感心してたんですが、今は御構い無しです。木の皮も昔は一部を除いて食べてたんですが、今は全部食べてしまいます。一部でも残ってると水が上がるので、枯れないんですが、その塩梅を昔の鹿は知ってたんだと思います。

ー猟しかないんじゃないですか
それも難しいんですよ。妙見山もあってハイカーが多くて猟銃でというわけにもいかず、罠でとなると、イノシシは足の置き場が決まっていて罠にかかりやすいですが、鹿は歩幅が広くて罠にかかりにくい。かと言って罠を多くともいきません、狩猟法で一人当たり30個の罠しか仕掛けられません。おまけに鹿の肉は背中のロースくらいで食べるところが少ない、下処理が大変で、食材としては多く売れません。自治体の害獣駆除補助金があるじゃないか、というと、地域によって補助金の額が違います。川西市は阪神地区で鹿の害が少なかろうと少し安いそうです。で、猟師がここには入ってきません。鹿が安全地帯だということで、川西市にこぞって入ってくる、鹿は賢い(笑)。篠山には鹿を買い取ってくれる施設があるそうですが、2時間以内に持っていかないといけなんですが、川西からでは行き着かない。
諦めずに何か方法がないか、色々考えています。

ー「日本一の里山」を守るためには
守るためには山の木を切ってあげることだと思っています。
菊炭にする枝は直径約10センチ。そこまでに育つのに10年。毎年2ヘクタールですから全体で20ヘクタールの山でクヌギを切っています。山主さんは、ほとんど山に入りませんから、ボランティアの方にもお力添えをいただいて色々トライしながら、私たちが切ることで、炭にすることで山を守っている状況です。全く新しい知らない人が切りたいと言っても、私たちは代々山に入っていますので、曖昧な境界も分かりますし、山主さんも私たちだから任してもらえていると思います。
地域には、いいクヌギがある山はありますが、切れない。切った木を降ろすのが大変なんです。昔は親父(今西 勝氏)がロープウェイみたいなもので、降ろしたりしたんですが、鹿の害を防ぐために高くで枝を切っているので、どんどん高くなってロープが引っかかって使えません。禿山にするつもりで切って降ろせばいいんですが、それでは萌芽再生できず里山ではなくなります。他の地域のクヌギではどうかと言うと、北の地域のクヌギだと太りが遅くて木皮が厚くなって見た目が悪く爆ぜます、煙も出やすい。やはり、この地域の切れる山の切れる分を大切にして、大切に焼くと言うのが現状ですし、そうあるべきだと思っています。

切るため守るためには需要への対応も重要です。毎年伐採する約2ヘクタールをベースにしてできる菊炭は約20トン。確かに茶道人口は減っているかもしれませんが、製炭者も減っています。今は菊炭の需要は確実に増えています。親父がいた時に二人で焼いた菊炭をストックしています。これがあるので、今はなんとかというところですが、これがなくなると注文を断らないといけなくなってきます。辛いところですね。

最近新しい窯を作りました。
すぐ横に古くからの一回り大きな窯があったんですが、イノシシが上に乗って潰れてしまいました。そこも少し小さくして再建しようと思っています。焼くのは息子が継いでくれると言ってくれていますので、なんとか家族で頑張っていこうと思いますが、やはりクヌギを守って増やさないといけません、ここの里山があっての菊炭です。

ーすみません、いきなりで話がそもそもになりますが、なぜ炭を焼いておられるんですか
好きじゃないと炭は焼けませんね。外で仕事する方が楽だろうとは思いますが、でも今のところは生活できていますし、何より一番は菊炭を必要としてくれる人がいること、それしかないです。「日本一の里山」も守っていきたいですね。

ーありがとうございました!

いきなり初見で(笑)インタビューをお願いし、快諾、終始笑顔で優しく力強くお話いただきました。
世の中のいろんなバランスが崩れてきて、今の現状があるんだなーと思います。
元に戻るではなく前を向いて、現状に最適なバランスをどう作り出すかがポイントではないかと感じました。
諦めることなく代々受け継ぐ菊炭や「日本一の里山」を守る今西さんの姿は、
根太い伝統をベースに若い芽を育てる、まさに「台場クヌギ」そのものです。
(T.Mi)

公益財団法人 地球環境戦略研究機関 関西研究センター所長  鈴木 胖 氏

(株)sonraku代表取締役 井筒 耕平 氏

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